この番組は2021年11月11日に放送されたものです

難病・ハンチントン病に向き合い、愛を貫いた夫婦の物語

花火大会の夜。マコトは妻のユイを車いすで連れ出して花火大会に出かける。マコトは花火に見入るユイの横顔を眺めながら、二人のなれ初めをブログに記すことを思いつく。ユイは難病・ハンチントン病を患っていた。高校の同窓会での再会や、初めて二人で行った花火大会。そして、はじめてハンチントン病のことを知った日のこと。日本人100万人あたり5~6人未満と言われる希少難病と向き合いながら愛を貫いた夫婦の物語。11月11日は介護の日。宮崎県在住の夫婦の実体験をもとに書かれたオリジナルラジオドラマを通じて、知られざる難病・ハンチントン病について、そして介護について考えます。

ハンチントン病とは? 根治療法が見つかっていない遺伝性の疾患

ハンチントン病は、脳の中にある線条体と呼ばれる大脳基底核のある部位で神経細胞が失われていく進行性の神経変性疾患です。2015年に難病法が施行されたことで難病に指定されました。日本人には100万人に5~6人未満という稀な病気で、多くの人がその名前さえ知る機会がありません。

代表的な症状として不随意運動が挙げられます。身体の様々な場所が、自分の意思とは関係なく勝手に動いてしまう症状です。症状が進むにつれて動きは大きくなり、最終的には、座ること立つこともできなくなり、寝たきりの状態となります。寝たきりの状態になっても不随意運動は続くので、ベッドの柵などでケガをしないような看護が必要になります。他にも物事を認識する力(思考・判断・記憶)の喪失、感情をコントロールする力の困難(抑鬱・感情の爆発 ・いらだちなど)といった精神症状があります。遺伝性の疾患で、親の世代から子供へ病気の遺伝子が受け継がれる確率は50%。根治療法はまだ見つかっておらず、患者のケアはもちろんのこと、将来、発症する可能性を持つ人たちの心理的な負担、介護者にかかる困難など、様々な課題があります。

“ハンチントン病”という名前は、1872年に初めて「遺伝的な舞踏病」としての医学的な報告を行った、アメリカのジョージ・ハンチントン医師の名前にちなんでつけられました。この病気は、かつては「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていました。しかし、全身の不随意運動は症状の一つに過ぎず誤解を招くため「ハンチントン病」と呼ばれるようになりました。

参考・出典:日本ハンチントン病ネットワーク(JHDN)https://www.jhdn.org/

ハンチントン病と向き合う夫婦の実体験

このラジオドラマは、宮崎県在住の井野畑青己さん(41)と妻の淳さん(享年40)の実体験を基にオリジナルストーリーとして書かれました。青己さんは、長年にわたってハンチントン病を患う淳さんの介護に身を尽くしてきました。二人は22歳の時に高校の同窓会で再会。好きなラジオ番組の話題をきっかけに仲を深めます。交際から同棲、そして結婚へと至る直前、淳さんにハンチントン病を患っている可能性が判明します。症状が進行すればいずれ寝たきりになります。診療を重ねた結果、診断が確定。それでも愛情が揺らぐことなく二人は結婚します。「僕の立場であれば、誰だってそう選択したはずです」と青己さんは語ります。

淳さんは32歳で自力歩行ができなくなり、34歳で食べ物の飲み込みが困難に。食事やおむつの交換、入浴の介助を青己さんはすべて一人で行いました。ハンチントン病の介護のなかでは、心が折れてしまうような辛い現実にぶつかることもありました。それでも青己さんは「介護を通して妻のことを考えていられる時間が幸せなんだ」と介護の手を離すことはありませんでした。しかし、症例が少なく一般に認知されていないことでの困難もあったといいます。病気が進行し不随意運動が激しくなると、しっかり体を拘束して本人の怪我を防ぎます。初めての病院や新しい介護士の訪問では、患者を拘束することへの抵抗感から緩められてしまい、淳さんが怪我を負うことも度々ありました。「ハンチントン病のことをもっとたくさんの人に知って欲しい」青己さんの強い想いによって、今回のラジオドラマが実現しました。

2020年9月12日、淳さんは40年間の生涯を閉じました。現在、青己さんは、日本ハンチントン病ネットワーク(JHDN)に参加し、ハンチントン病の患者やその家族を支援する活動に取り組んでいます。国内で医療受給者証を交付されているハンチントン病患者は2019年度末現在で911人とされています(出典:難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/5354)。

ラジオドラマ 声の出演

イワキリ マコト役 : 池田 いっけい

宮崎県出身。養成所を経て「みやざき演劇祭」をきっかけに多数の劇団・ユニットに参加。テレビ・ラジオCM、企業PR動画のナレーターとしても活躍している。宮崎県内就職促進CM「新しい自分を宮崎から始めよう」など、多数のローカルCMに出演。

イワキリ ユイ役 : 木内 さや香

東京都出身。アクセント附属養成所シャイン21期生。第45回シアター×名作劇場「喜寿万歳」、劇集団光公演「天才バカボンのパパなのだ」に出演。Netflix配信「ザ・ジレンマ: もうガマンできない?!」ではアレクサンドラ・ロクソのボイスオーバーを担当。

ユイの父親役 : 池田 知聡

宮崎県出身。声優・ナレーター・ラジオパーソナリティ、声の劇団イマージュ所属・SALAみやざき宮崎校 校長を務める。『忍たま乱太郎』 灰洲 井溝 (第16シリーズ~) 里芋行者 (第17シリーズ~)/『クレヨンしんちゃん』 よし治(九州のじいちゃん)/『名探偵コナン』 三船龍一(#603~#605)ほか多数のアニメ作品に出演。

制作スタッフ

脚本 グンジキナミ

写真家・文筆家として活動。20代から写真家として創作活動しながら、WEBや紙媒体など様々なメディアに寄稿。2020年に文芸誌『文学と汗』編集・発行。MRTラジオ「GO!GO!ワイド」毎週月曜日「GO!GO!書房~本棚からひとつかみ~」レギュラー出演。

音楽 横山 起朗

ポーランド国立ショパン音楽大学にてピアノを学ぶ。宮崎、東京、ポーランドを拠点に演奏・作曲を行う。2019年4月よりMRTラジオ『be quiet -世界で一番静かなラジオ-』パーソナリティーとして活動を開始。