#51 藤岡寛生(寿司職人)
25年11月12日(水) 20:00
藤岡寛生さん(宮崎市出身)
鮨。厳選された魚貝と職人の技が光る繊細なシャリが織り成す、芸術とも言われる日本の食文化の象徴は、
国内はもちろん、世界から注目される、ジャパニーズフードです。
東京、銀座。
日本で最も地価が高いエリアとして知られるこの街のビルの一角に、一軒の寿司店があります。
「鮨 ふじおか」
店主を務めるのは、宮崎市出身の32歳、藤岡寛生さんです。
(藤岡さん)
「今年の12月で(開店して)丸2年になります。」
「今年は秋刀魚がすごくいい年なので...。(今は)秋の食材を使っているので、秋刀魚や鰆...。
あとは、宮崎で魚をやっている友達がいるので、その友達から仕入れたイシガキダイ。
地元に帰って食べたときにお寿司屋さんで食べて、美味しかったのでちょっと使ってみようかなと。」
店内は、カウンター8席のみの完全予約制。
営業は土曜のランチタイムと、夜6時・夜8時からの一斉スタート。
おまかせで提供されるその鮨を求めて、国内外の客が訪れます。
(藤岡さん)
「シャリの温度の変化というのを握りに取り入れていて、
中心70度くらいの熱い温度帯のシャリから握っていくんですけれども、熱い。
普通だと人肌くらい、36~40度くらいのシャリが、東京江戸前鮨では主流なんです。
そこをちょっと高めの温度帯で、且つ食材にあわせて、握りの温度帯を決めている、ということです。」
握りや甘味には、ルーツである宮崎の要素も取り入れています。
(藤岡さん)
「”地元がある”というのは、お店をやるうえで強みになると思うので、
そういった点でも(宮崎のものを)積極的に取り入れていて。
最後にデザートでお出しする卵焼きも、飫肥の厚焼き卵という、伝統として残っている卵焼きがあるので、
それをアレンジしたというか。
あと、今手に持っているこれがへべすなんですけど、宮崎の柑橘といえば日向夏かへべすというところなんで。
地元に帰った時に、実際に食べて美味しかったものを、これってどうなんですか?ってきいたりとか。
結構勉強しに帰る部分もあるので。銀座という場所柄から、結構海外のお客様もいらっしゃるので、
日本の方と海外の方と、まあ色んな国の方が最近多いですね。」
(中国からの客)
「とてもすばらしい、おいしいです!日本に来たら、いつも”おまかせ”。寿司を愛してる。」
(韓国からの客)
「ふじおかの寿司はパーフェクト。おまかせで食べるのは初めてだけど、すばらしい体験をさせてもらった。」
「日本に来たら、寿司は”おまかせ”をオススメするよ。」
―――
現在、スタッフは藤岡さんを含めて3人。
(藤岡さん)
「前に同じ寿司屋で働いていたことがあって。僕が社員で彼女がバイトだったんですけれども、
その時の接客でしたりお客様への気配りというのがすごく素晴らしくて。」
藤岡さんに憧れて弟子入りした男性も。
(弟子・建石さん)
「(若い師匠ですねというスタッフの問いに対して)・・・って言われているのをよく耳にします。(笑)」
「学ぶところがいっぱいありますし、憧れます。僕もこういう風になりたいなって。」
―――
翌朝、日本中から様々な食材が集まる、豊洲市場へ。
お店での白衣とはまた一味ちがった印象の私服で登場した藤岡さん。
(藤岡さん)
「普段はこんな感じなんです(笑)」
藤岡さんは、高校卒業後すぐに東京の老舗寿司店に弟子入りしました。
(藤岡さん)
「東京慣れました。もう14年住んでいるので。
でもやっぱ、東京に出たからこそ、宮崎の良さが分かるというか。食べ物もそうだし、場所柄も人の温かさも。」
ネタが味を大きく左右する寿司の世界。
向かったのは、江戸前鮨の花といわれるマグロの専門店、結乃花。
(藤岡さん)
「シャリもそうなんですけれども、(ネタも)温度で魚の香りをたててあげたり、お酒の香りをたててあげたり。」
結乃花の井手社長と話しながら見定める藤岡さん。
百戦錬磨のプロが集う豊洲での仕入れには、確かな知識と信頼が必要です。
高いレベルの寿司を出すには、魚の知識も欠かせません。
(藤岡さん)
「結構楽しいですね。やっぱり魚によってどこをみるかが違うので・・・。
例えばサバだったら、尻尾の厚みで判断したりとか。秋刀魚なんかも、口の先端が黄色いのが、この時期一番
脂を蓄えている証拠なので・・・。あとは首筋からかけた太さ・厚みなんかをみながら・・・。」
(大力商店・原田社長)
「(藤岡さんは)もう、素晴らしいです。若いのにね、銀座の一等地にお店構えられるんですから。すごいですよね。
仕事も間違いないですよ。修行されたところも、やっぱりしっかりしたところなので。
彼は人がいいから。やっぱり業者に可愛がられるタイプね。」
営業は夜から。
しかし、仕込みが命とも言われる江戸前鮨。
午前中には、店で準備を始めます。
(藤岡さん)
「(今仕込んでるのは)カスゴです。お湯をかけることによって皮目のゼラチンが溶けるので、
それに冷たい風をあてて、冷まして、馴染ませて、そこからまたネタを常温に戻して、
固め直したゼラチンがしっとりと仕上がるように。」
「食べるのは一瞬なんですけどね。その一瞬のために色々やっているという感じです。」
32歳ながら、銀座の一等地で店を構える藤岡さん。
そんな藤岡さんと、今でも交流のある人が、宮崎にいます。
高校時代、野球部で共に汗を流した、田原彰二さんです。
(藤岡さん)
「彼がいなかったら、僕は寿司屋になっていないかもしれないので。」
「中学生の時に、寿司屋になるか、理学療法士になるか迷った時期があって、寿司屋になるなら
佐土原高校で野球に振り切ってやって、卒業と同時に寿司屋の世界に入ろう、でも理学療法士になるんだったら
違う高校行って、勉強と野球両立しながら大学進学したいなというのがあったんですけれども、
彼にオープンスクールの時に会って、一緒に野球したいと思って(佐土原高校へ進学しました)。」
田原さんには、学生時代の藤岡さんの忘れられないエピソードがあるそう。
(田原さん)
「修学旅行の時に、僕は違う班だったんですけれども、
自由行動時間に藤岡が行きたかったお築地の寿司店に行って、そこで求人をもらったというのを聞きました。」
「そこから、みんなに、寿司職人を目指すと言っていました」
(藤岡さん)
「どうしても東京で修行したいというのがあったので、履歴書を持って、築地のお寿司屋さんに飛び込みで。
坊主頭の学ランの生徒が5人カウンターに座るっていうのが異常な空気感だったので、
”えっ?大丈夫?”みたいな感じだったんですけれども。」
「お話をさせていただいたら、”じゃあ面接するから来年おいで”ということで、次の年に面接に行きました。
今思うと、”よくやったな”と。よく臆せず飛び込んだなと思います(笑)」
そしてついに高校卒業後、老舗の「築地寿司清」へ就職しました。
周囲に夢を話し始めたのは高校時代でしたが、実は、藤岡さんが寿司職人を志したのは5才のころ。
(藤岡さん)
「母が、学生時代にバイトしていた宮崎のお寿司屋さんに連れて行ってもらって、
お寿司屋さんの大将に憧れて、この道に入ることになりました。」
「夕顔寿司っていうお寿司屋さんで、今は店は閉められていて今は無くなってしまったんですけれど、
すごく面白い、お話の上手な方で、まちなかのお寿司屋さんなんで出前の準備もしながらすごくテキパキされてて
5才の僕からみたらヒーローみたいな人で、この人みたいになりたいな~と思ったのがキッカケです。」
その後、六本木の「鮨悠」や銀座「佐たけ」などの名店で腕を磨いた藤岡さんは、30歳の時に銀座で店を構えました。
“お~い!元気しちょる?”
寿司職人の道に進むキッカケをくれた友人・田原さんからの贈りもの。
(藤岡さん)
「あ~いいですね、本霧。こっちではなかなか呑めないので、僕も地元帰るたびに買って帰るので...最高です!」
(藤岡さん)
「握りの最後あたりに、味わいが濃くなってきた頃に、香りを立たせた(焼酎との)ペアリングも考えたいですね。
宮崎のもので...へべすを搾っても、ニュアンスとしては良いのかなと思うので。」
田原さんからのビデオメッセージに笑顔の藤岡さん。
―――東京、銀座。
寿司店が150軒以上あるともいわれるこの場所で、今日も藤岡さんは世界を相手に鮨を握っています。
(藤岡さん)
「これだけ寿司屋がある中で、うちを選んでくださるということだけでもすごくありがたいことだと思うので、
勝手に日本代表だと思って鮨を握っています。」
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